東京高等裁判所 昭和29年(う)3342号 判決
被告人 田原勇蔵
〔抄 録〕
弁護人の控訴趣意第一点について。
所論は、本件記録を見るに起訴状のすぐ次に勾留状と逮捕状、同請求書等が点綴してあり、いずれも第一回公判調書より前に点綴せられていることは明らかであるから、右書類は起訴状に添附して提出せられたものである疑が濃く少くとも第一回公判期日前に受訴裁判所に提出せられたものであることは明瞭である。刑事訴訟法第二百五十六条第六項には事件につき予断を生ぜしめる虞のある書類その他のものか起訴状に添附してはならない旨の規定があり、又刑事訴訟規則第百六十七条第三項は、裁判官は第一回公判期日が開かれたときは逮捕状、勾留状等を裁判所に差し出すべき旨を規定していることより考えれば、起訴状にこれ等書類を添附して提出したのは公訴提起の手続が前記法条に違反し無効であるといわなければならない。従つて刑事訴訟法第三百三十八条第四号により判決を以て本件公訴を棄却すべきであつたのに拘らず漫然これを受理し有罪の判決をなした原裁判所は、同法第三百七十八条第二号にいう不法に公訴を受理した違法があると主張する。
なるほど本件記録を見れば、起訴状の次に勾留状、逮捕状、逮捕状請求書が綴つてあり、これに続いて被告人の申出書(弁護人選任に関する被告人の回答書)国選弁護人選任書、及びその受領書、弁護人及び被告人の公判期日請書第一回公判調書の順に綴込まれていることは明らかである。又刑事訴訟法第二百五十六条第六項は起訴状には、裁判官に事件につき予断を生ぜしめる虞のある書類その他のものを添附してはならない旨を規定しており、右書類には一切の捜査記録は勿論逮捕状請求書、逮捕状、勾留に関する書類等もすべてこれを包含するものであることは所論のとおりであるが、検察官は公訴を提起したときはその裁判所の裁判官に逮捕状、勾留状を差し出さなければならないし(刑事訴訟規則第百六十七条第一項)又裁判官は第一回公判期日が開かれたときは速やかにこれ等書類を公判裁判所に送付しなければならない(同条第三項)のであるから、これ等書類は検察官が直接公判裁判所に送付すべきものではない。従つて本件勾留状等は起訴状に添附して公判裁判所に差し出されたものではなく、公訴提起後検察官が裁判官に差し出し更にこれを公判裁判官に送付されたものを、記録に編綴するに当り、その順序を誤つたものと認めるのを相当とするから、本件公訴の提起はその方法につき所論の如き瑕疵ありということはできない。